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『腐女子、うっかりゲイに告る。』で考える

腐女子、うっかりゲイに告る。』で考える
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最近、NHKドラマは熱い。NHKには色々なドラマ枠があるけれど、どこも熱い。『いだてん』に『透明なゆりかご』に『昭和元禄落語心中』に『トクサツガガガ』に『デジタル・タトゥー』... 去年から今年だけでもこんなに良い作品が揃っている。特にLGBTQを扱った作品で本領発揮する。去年の『女子的生活』の時にも思った。『女子的生活』は、大好きな町田啓太が出ていたから見た。最初はその程度だったけれど、LGBTQを重くなく、かと言って雑で軽々しく描いている訳でもない、絶妙なバランスで主人公の心情を丁寧に描いていた作品で、最後にはガッツリハマっていた。そんなNHKの新しいドラマ『腐女子、うっかりゲイに告る。』も、やはりそうだった。金子大地が出ているから... そんな軽い気持ちで最初は見始めたが、終わる頃にはガッツリと見ていた。

同性愛者である主人公の安藤純(金子大地)は、年上で既婚者の彼氏マコトさん(谷原章介)がいるけれど、そのことをひた隠しにして高校生活を静かに送っていた。偶然、ある日、同級生の三浦さん(藤野涼子)と本屋でバッタリ会ってしまい、彼女の秘密である腐女子(BL好き女子)であることを知ってしまう。三浦さんは、中学時代に腐女子バレしてしまい気持ち悪がられた経験があるので、純には内緒にして欲しいと頼む。そんなやり取りをしていくうちに、純と三浦さんは徐々に心を開き始めるが...

と、高校が舞台のLGBTQ作品である。この作品は『女子的生活』とは違って、かなり重い。タイトルからは想像出来ないほどの重さだ。逆に今回はその重さが良かった。『おっさんずラブ』では異次元な新世代を演じていた金子大地とは思えないほど、今回の金子大地は暗い。恐らくこの時期放送していたドラマの中で(いや今年のドラマでかもしれない)一番暗い役で、彼を覆うオーラは闇で、向う側には何も見えない程暗い。そして、金子大地演じる純くんが暗い闇を抱えるほど、私は罪悪感を感じてしまった。恐らく他の視聴者もそうだったことと思う。私も以前どこかで知らない間に純くんと同じ悩みを抱える人たちを傷つけていたかもしれない。私たちをそう思わせてしまう演技だった。そして、純くんは暗くなるけど、相手役の三浦さんだけは明るかったのが良い。『女子的生活』で町田啓太が演じていた後藤のように、私たちが取るべき姿勢を見せてくれている。希望であり光である存在。彼女の屈託ない笑顔には救われたし、終盤の体育館での長台詞は圧巻だった。

このドラマを見てハッキリと分かった事がある。『おっさんずラブ』が盛り上がった時もそうだったが、掲示板やSNSでドラマを語る時に、「私は腐女子じゃないけれど」や「BL好きじゃないけど」という枕詞が用いられることが多かった。その言葉に私はずっと違和感を感じていた。腐女子やBL好きの人々に壁を作っているような言葉だ。「私は『おっさんずラブ』が好き」と書いただけで、その書いた人を腐女子やBLだと決めつけてしまう方が短絡的で愚かだ。それだけの情報で固定観念で人を括ったり、レッテルを貼る方が悪い。そして、その人が「じゃなかった」として、何なんだ?と。その壁が、純くんや三浦さんを傷つけているんだと、このドラマで教わった。その人にとって腐女子やBLや同性愛は「じゃない」世界でも、それが普通の世界が当然ある。色んな世界がある。大なり小なり。私も、ブラックムービーが好きという小さい世界にいる。居ない人たちにとっては、理解できない世界だ。正直、その世界で悩むこともある。純くん位の頃は私も悩んだ。周りに同じ趣味の人なんていなくて孤独だったから。黒人(が全員)好きというレッテルを貼られ、実際に嫌な事を言われたり、された事まである。純くんの悩みに比べたら、私の悩みなんてちっぽけだ。でも好きなことは止められなかったし、それが自分なのだと受け入れて、好きな物を書き続けた。分かってくれる人が1人でも居ればいいから。受け入れてくれる人は必ずいる。時間が掛かるかもしれないけれど。そんな世界を手に入れた人たちが、同じ時期の別のドラマに居るのを確認した。別チャンネルで放送したの『きのう何食べた?』の人たちだ。

このドラマの純くんにも、強くなっていく予感を感じた。分かってくれる大事な人が現れる。純くんバージョンの『きのう何食べた?』が見れるのも、そんな遠くない気がしている。